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気まぐれ日記(笑)
普通の日記・音声・バトン、なんでもアリの日記です♪
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「何言ってるんですか?」
「ホント、いくら嫌いだからっていって、
本気でワイヤー使って攻撃することないじゃん・・・」
「・・・気づいちゃったんですか・・・」
「まぁね・・・嫌いだからこそ、気づいたって感じ?」

とりあえず、私は花梨ちゃんの手を握って逃げる体勢に入った。
この子だけは逃がさなきゃ・・・


私を救ってくれたこの子だけでも・・・

少し後ずさりした瞬間、戒厘ちゃんはワイヤーを握り締めた。


「どきな・・・」

私に対峙していた戒厘ちゃんをどかすと、あの女が微笑んで戒厘ちゃんの前に出た。


「・・・戒厘ちゃんに何をしたの・・・」
「・・・別に?アタシは何もしてないさ・・・」
「あっそ・・・じゃあ、それが戒厘ちゃんの素なんだ・・・」
「幻滅したかい?」
「・・・半分やっぱりって感じだけどね・・・」


女に恐怖心を覚えつつ、私は精一杯の虚勢を張った。



もう少しすれば、きっと後方支援の二人が気づいてくれる・・・



戒厘ちゃんが操られてるとしたら、あの女はかなりの術の使い手・・・

「それよりさ、質問に答えてくれない?」
「アタシが誰かって?」
「そう・・・」
「・・・アタシは、アンタ達の昔なじみだよ・・・特に、アンタのね・・・」

女に気をとられて、いつの間にか戒厘ちゃんが女の後ろからいなくなっていることに気が付かなかった。


どこに?!

「ぅわ?!」
「?!」


手を握ったままの花梨ちゃんが声を上げた瞬間、
私が驚いて後ろを振り向くと、戒厘ちゃんが微笑んで
花梨ちゃんを盾にするように私から離れた。


「何やってるかなぁアンタは・・・戒厘さん?」
「さぁ・・・私は自分のやりたいことをしているだけですけど・・・?」


・・・え?私?
やっぱり違う・・・
戒厘ちゃんは私なんか言わない・・・
操られたら、そこまで変わる?



「あんまりしかとすると、いじけちゃうよぉ?」
「っ!?」

一瞬の考え事のせいで、
いつの間にか女が私の真後ろに移動をしてきたらしい。
突然真後ろで女の声がしたことに驚いて振り向くと、
女に腕をとられ、あっという間に地面に押し付けられた。
今の状況じゃ、きっと私には勝ち目はない・・・


「女に押し倒される趣味はないんだけど・・・」
「たまには良いんじゃない?結構似合ってるじゃないかい、その男装・・・」




女が私に乗り掛かり、耳元でささやいた。




「そりゃ、どうも・・・どうも、これ着た途端モテモテなんだよねぇ・・・」
「そりゃ、良かったじゃないかい・・・」
「どうだか・・・」




私は、苦しさを見せないように軽口を叩いた。




「そうそう、面白いことを教えてあげようか?」
「何よ・・・」
「アンタが待ってるノア達・・・ここには来ることが出来ないからね・・・」
「・・・え?」




私は、後方支援がないと云う驚きより、ノアという名前を聞いて、
真っ先に亜梨ちゃんを思い浮かべた自分に驚いた。


「の・・・あ?」
「おや?アンタまだ聞いてなかったのかい?」
「何を・・・」
「あんた達の本当の名前さ・・・ノア、メル、ベニン・・・
それに、裏切り者のアニー・・・」
「・・・ち・・違っ・・・」




違う・・・
私は裏切ってなんか・・・










あれ?私どうして裏切り者って言葉に反応したの?
アニーってのが誰だか分からないのに・・・




誰も、私がアニーなんて言ってないのに・・・





「この際、はっきり教えてやるよ・・・アンタは・・・」
「離してっ!!」




女の言葉を遮るように、花梨ちゃんが暴れた。


「その人を離して!!」
「アンタはおとなしくしてな・・・」
「嫌!!その人を傷付けるつもりでしょ?!そんなのダメ!!」
「ホント、モテモテだねぇ・・・」




女は、私を押さえつけたまま、私の髪を掴み、持ち上げ、
顔だけWカリンちゃんに向けた。




「止めて・・・」
「フフッ・・・さすがに何をするか分かったかい?」
「ダメだよ戒厘ちゃん・・・全く関係ない人をっ?!」
「・・・フフッ・・・」




戒厘ちゃんは、ただ微笑むと、花梨ちゃんを私の目の前に連れてきた。




「・・・別れの挨拶はいいですか?」
「っ?!!」
























戒厘ちゃんの言葉と同時に、私と花梨ちゃんはお互いの目を見た。

「ダメェェェ!!」













私は、声の限り叫んだ。




それでも、戒厘ちゃんの皮を被った奴は、笑顔で花梨ちゃんを手にかけた。








戒厘ちゃんの腕の中から、まるで糸の切れた人形のように
倒れた花梨ちゃんからは、真っ赤な血があふれ出した。










「イヤァァァァ!!!!」










私は、顔を背けることも出来ず、ただ目を瞑った。















それから、私は戒厘ちゃんの糸にとらわれ、
まるで貼り付けにされたかのように、
宙に浮かべられたまま力なくうなだれていた


「まったく、アンタ達もバカだねぇ・・・」




正面で女が嬉しそうにつぶやいた。




「今回の殺しも、アンタ達をおびき出すためって気付かないんだから・・・
ホント、間抜けな神子様達だよ・・・」
「・・・戒厘ちゃんをどうするの・・・」
「・・・この期に及んで、他人の心配かい?」




うなだれたままの私のあごを掴むと、女は無理やり正面を向かせた。




「そうだねぇ・・・このまま手下にするってのも良いけど、
あの顔を見てると、虫酸が走るんでね・・・」
「・・・殺すの・・・?」
「・・・ああ。お前を始末してからね・・・あの時と同じように・・・」
「あの・・・時?」
「・・・ああ・・・」




私が女を見つめると、じっと私を見ている目に捕らえられた。








どうして・・・
普通なら、どんな敵にも恐怖なんて起きないのに・・・
どうして、この女だけは怖いの・・・?




.「あぁ、そうだ・・・面白いことをしてやろうか?」
「何・・・?」




ちょっと離れた所にいて、
私達を無表情で見ていた戒厘ちゃんが近づいてきた。




「やりな・・・」
「え?」




女の言葉と同時に、戒厘ちゃんは短いワイヤーを束ね、
まるで刀のように太い塊にした。




次の瞬間、私は逃げることも出来ず、ただそのワイヤーをお腹に受け止めた。








「ぐっがああぁぁぁっ!!!」








熱い・・・
痛いとかじゃない・・・
お腹が熱い・・・






「はぁ・・・はぁ・・・」




痛さと、戒厘ちゃんの気功のせいか、とにかくお腹に熱さを感じ、
思わず目を瞑った私だったけど、息をしながら目を上げると、
そこにはメルメルが立っていた。




「っ?!!!」




「な・・・・ん・・・・で・・・・」


痛みをこらえながら、そうつぶやくと、メルメルは本当に楽しそうに笑った。






「嫌だなぁ・・・まだ気付いてないんだ・・・」
「・・・え?」
「・・・地界人は敵・・・」
「・・・・・え?」
「・・・本気で一緒にいるとでも思った?」






違う・・・
メルメルじゃない・・・
メルメルはこんなこと言わない・・・
戒厘ちゃんだって、あんなことしない・・・・








幻覚だと分かっていても、私は耳を押さえることも出来ないまま、
戒厘ちゃんには体を、メルメルには心を攻撃され、自分を見失い始めていた。












そして、畏れていた通り、次は亜梨ちゃんだった。


「・・・亜・・・梨・・・ちゃん・・・」
「・・・・・・・・・」


亜梨ちゃんじゃないと分かっていても、今の私には、
目の前の人を否定できるほど力も精神力も残っていなかった。






亜梨ちゃんは、黙って私に近づき、そっと頭に手を添えて顔を近づけた。


「やめて・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・消えろ・・・」
「っ?!!!!」














全てを否定された気がした。




一番無意識で畏れていた事だった。








どんなにいい加減でも、あの三人だけは私を受け止めてくれると信じていた。


何処かで甘えていた・・・






それを全て打ち消された私は、もう顔を上げる力さえ残っていなかった。








多分、今のは全部私の中の恐怖の心・・・


一番こうなって欲しくないと思っていたモノ・・・




「・・・死にたいかい?」
「・・・・・・」




女の問いかけに、答えられなかった。






「あの時みたいに死ぬかい?」






女がそういった瞬間、また耳鳴りがした。




「何・・?結界が?!」






女は急いで何処かへ消えた。










気配を感じ、少し顔を動かすと、そこには戒厘ちゃんが立っていた。




これもきっと幻覚・・・






どうせなら、もう少し仲良くしとけば良かった・・・






戒厘ちゃんが近づいてきた。




そして、私の捕らわれている手に巻き付いたワイヤーに手をかけた。








何か言ってる?










あれ?私耳まで聞こえなくなったみたい・・・






「杏ちゃん!!!」
「・・・・え?」






たぶん初めてだった。






必死で怖い顔をした戒厘ちゃんが、私の名前を呼んだの・・・






「しっかりしてください・・・」
「・・・・・・」




私はそれでもただぼーっと戒厘ちゃんを見つめることしか出来なかった。
「杏ちゃん!!!」




“パシッ”






辺りに軽い音が響いた。






今、戒厘ちゃんに叩かれた?






「杏ちゃん!!」
「・・・今・・・」
「初めてですよね・・・僕があなたに手を上げるの・・・」
「・・・戒厘・・・ちゃん?」






自分を僕と呼ぶ戒厘ちゃんに、なぜか私は涙があふれ始めた。






「今、これを解きますから・・・もう少し辛抱して下さいね・・・」




そういうと、戒厘ちゃんは素手でワイヤーを握って切ろうとしているのか、
必死に引っ張っていた。






「・・・何・・・してんの?」
「・・・これだけは幻覚じゃないんですよね・・・
彼女、力だけは強いみたいですね・・・」










あれ?そういえば、お腹が痛くない・・・






「それも幻覚です・・・」
「え?」




戒厘ちゃんの言葉に、驚いて戒厘ちゃんを見ると、微笑んで私を見た。












あれ?
じゃぁ、何でワイヤーに血がついてるの?


どうして・・・


「・・・・っ!」






戒厘ちゃんが顔をしかめた。
・・・え?
まさか、これ・・・


「戒厘ちゃん?!」
「何ですか?」
「何って・・・血・・・」
「あぁ・・・こんなの大丈夫ですよ・・・・あなたに比べれば・・・」




そういう戒厘ちゃんの手からは、どんどん血が流れていた。

それでも、戒厘ちゃんは、ワイヤーを引きちぎろうとして引っ張り続けた。




「もういいよ!」
「いえ・・・このワイヤー、独特のモノなのか、
刃物じゃ切れないんです・・・」
「だから、もう良いって!戒厘ちゃん、手が・・・」
「助けたいんです・・・」
「・・・え?」


そう呟いた戒厘ちゃんは、悲しそうな顔をしていた。




「・・・あなたは絶対僕が助けるんです・・」
「何言って・・・」






次の瞬間、足音が聞こえてきた。


「っ?!」
「逃げて戒厘ちゃん!!!」
「いいえ・・・絶対に逃げません・・・」




戒厘ちゃんは、立ちはだかるように私の正面に立った。















手なんてもうぼろぼろなのに・・・




「どけて戒厘ちゃん!!そんな手じゃ、戦えるわけないでしょ!」
「そういうあなただって、戦えるわけないでしょそんな姿で・・・」
「でも?!」


「いいから、黙って・・・」



戒厘ちゃんが手に気功を集め構えると、そこに姿を現したのは、メルメルだった。




「厘ちゃん!杏!!!」
「梅流ちゃん・・・」


戒厘ちゃんがホッとしたような顔で、手を下げた。




「大丈夫杏?!」
「う・・・うん・・・」




さすがに、幻覚と分かっても、さっきの光景が頭に焼付いて、
私は曖昧な返事しか出来なかった。




「・・・取りあえず、梅流ちゃん、このワイヤー切れませんか?」
「え?ちょっと厘ちゃん?!手!!!」
「ちょっと無理しすぎました・・・」
「厘ちゃんが無理なの、メルに切れるかな?」
「切れますよ・・・」
『え?』




私とメルメルが戒厘ちゃんの言葉に驚いていると、
そこに亜梨ちゃんも現れた。






「・・・まだてこずっているのかお前等・・・」
「亜梨ちゃん、あの人は?」
「追っ払った・・・」
「犬じゃないんですから・・・」
「犬と云うより、化け猫だろあいつは・・・
それより、早くそのワイヤーを切って、帰るぞ・・・」




メルメルがナイフでワイヤーに触れると、
突然まるでゴムが弾けたようにワイヤーがただの糸と化した。




「っ?!」






私は、突然支えをなくし、その場に座り込んだ。


「な・・・んで?」
「なんでメルだと切れたの・・・?」




私は分からずに座っていると、メルメルも不思議そうにワイヤーの切れ端と、
自分の手を見比べた。




「属性の問題ですよ・・・」
『・・・え?』


メルメルと一瞬顔を見合わせ、もう一度戒厘ちゃんを見ると、微笑んだ。




「木属性の杏ちゃんを縛るためにどうやら、
彼女金属性の力でワイヤーを強化したみたいなんです・・・」
「オレも戒厘も木と相性が悪い土だからな・・・」
「なんで、相性悪いとダメなの?」
「金と相性が良くては、ただワイヤーの力を強化してしまう
だけですからね杏ちゃん・・・」
「でも、厘ちゃん水属性もってるよ?水は、金とも木とも相性いいよね?」


メルメルの問いかけに、戒厘ちゃんは自分の手を見つめた。


「だから、試したんですけどね・・・ダメでした・・・」

「恐らく、相性が良くても、オレと戒厘の水と火では、
力が弱かったんだろうな・・・」
「そっか・・・金属性のメルメルなら、まんま金属性だから、
ワイヤーとの相性が良かったんだ・・・」
「ええ。毒には毒をもって制すって事です。」


そういうと、座ったままの私に戒厘ちゃんが手を差し出した。


少しためらったけど、その手を取って立ち上がると、
彼女の手にはまだ痛々しい傷が残っていた。




それを見た途端、私は戒厘ちゃんの手が離せなかった。




「杏さん?」
「・・・ごめん・・・」
『え?』


突然謝った私に、三人は驚いて私を見つめた。




それでも、私はただ戒厘ちゃんの手を握って、見つめたまま動けなかった。



「・・・ごめん・・・ヘマして・・・」
「何言ってんの杏!杏は悪くないよ!!」




メルメルが否定してくれたけど、やっぱりどうしても私は
さっきの光景が忘れられず、一瞬皆に疑いと恐怖を覚えた。






本当は、足手まといだと思ってるんじゃないか・・・?




神子だから、仕方なく助けたんじゃないか?




本当は、もっと・・・






悪い方に考えていたとき、握ったままの手を、
戒厘ちゃんが思いっきり引っ張った。


「ぅわ?!」




私は、思わずバランスを崩し、戒厘ちゃんに抱きつくようにしがみついた。

「・・・ヘマしたのは僕です・・・ごめんなさい・・・
あなたを傷つけて・・・」
「・・・厘ちゃん?」
「僕さえ、もっと注意してたら・・・この人をこんなにも
傷つけなかった・・・この人を失うという恐怖を、
味あわなくてすんだんです・・・」
「ちょっと・・・戒厘ちゃん?」
「あの時、こうしないために僕は・・・」




戒厘ちゃんが何かを言おうとした瞬間、
頭に軽いけど音だけ大げさな衝撃があった。




「いつまで抱きあってるきだ・・・気色悪い・・・」




そういうと、亜梨ちゃんはどこから出したのか、
ハリセンを肩に担いで歩き出した。




「って、ちょっと何でハリセンなんて持ってんの?!」
「さぁな・・・」
「というか、殴ることないじゃないですか!!」
「うるさい・・・」





言い合いながら歩き出した私達をみて、メルメルがクスクスと笑っていた。




「何メルメル?」
「ううん・・・よかった・・・皆無事で・・・」
『・・・え?』


私の腕に絡みつきながら嬉しそうに言うメルメルに毒気を抜かれた私達は、
一瞬三人で顔を見合わせたけど、一瞬でいつもの笑顔に戻った。




「今日の食事は、戒厘と杏だからな・・・」
『えぇ?!』
「あ、梅流パスタ食べたい♪」
「何で僕たちなんですか?!」
「お前等二人でヘマしたからに決まってんだろ・・・」
「って、私達大変だったんですけど?!」
「知るか・・・迷惑かけた罰だ。」
「亜梨ちゃんの鬼!!」
「んだと・・・」
「あ・・・ヤバっ・・・」
「杏!逃げよ!!」
「うん!!」




私はメルメルと駆け出した。


「貴様等?!!」
「亜梨ちゃん・・・」
「なんだ!」
「・・・嫉妬ですか?」
「・・・殺すぞ・・・」




亜梨ちゃんは、戒厘ちゃんに銃を向けていた。




それでも、楽しそうな戒厘ちゃん・・・


それを笑いながら見ているメルメル・・・




いつも通りに戻った私達・・・


多分、まだ私の中には、未だにあの恐怖が根を張っている。




だけど、たぶんこの人たちだったら、
いつかその根っこごと燃やしてくれるだろう・・・






今は、この人達はきっと大丈夫と無理に言い聞かせてるだけかもしれない。
だけど、いつかそれが当たり前のように出来る日が来る筈。
だから、それまでちょっとがんばって皆についていってみようかな・・・






次にあの女に会ったら、一発はぶん殴る!


と当面の目的は立ったし、少しの恐怖心をこらえて歩いていこう。






私達が歩きだしたのは、真っ暗な夜だったけど、
無数の星が嫌キラキラと輝いた夜だった。

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8.任務


青龍の神子と呼ばれ、他の神子を名乗る集団に合流して、数週間……


やっとなんとか三人の性格が掴めてきた………


って、違うか………
あの、玄武の神子以外の二人はだいたいは掴めたけど、
あの人だけは掴めない…


私を認めてないくせに、庇おうとする…
認めてないくせに、私を見るとき、やたらと悲しそうな…
何かの苛立ちを隠すような…
複雑な顔をする…


そして、何より私は、その目を見て、彼女にそんな顔をさせてることに、
理由も分からないとてつもない罪悪感に襲われる………


ホント、訳分からない…………

そんなある日、私は亜梨ちゃんに呼ばれた。

「何か呼んだ?」
「今日舞踏会がある。この服を着て、戒厘と行って来い。」
「………はぁ?!ちょっと待ってよ!舞踏会なんて意味分かんないし、
何でよりにもよってあの人となの?!ってか、行く意味分かんないし!!」
「……任務だ。」


亜梨ちゃんは、人差し指を上に向け、ただそう言った。

「わけ分かんないよそれじゃ!!」
「オレが知るか…いいから、黙って行きやがれ…」
「だから、何しに?!」
「……さぁな……」
「ちょっとぉ………」


いろいろわけ分からなく、私は思わずうなだれた。


「おそらく……」
「お偉いさんの趣味とか言わないよね……」
「言うか……最近、変な輩が無差別に人間を襲ってるからな…」
「…襲うか襲わないか分からない敵に会うために、行けってこと?」
「イヤ…お前等は囮だ……」
「………ますます分かんないんですけど……」
「…………いいから、黙って行きやがれ!」


いい加減、説明がめんどくさくなったのか、私は部屋から追い出された。
一緒に投げ出された服を取り上げると、私は思わずあまりの驚きに、
一瞬言葉が出なかった。


「なんで、私が男物着なきゃいけないのよ!!!」

私は、メルメルと今回のパートナーがいる部屋に駆け込んだ。


「………どしたの杏……?」
「なんで、よりにもよって男物なのよ!それに何で私が…」


そこまで叫んだ瞬間、戒厘ちゃんが私の目の前に立った。


「な…何よ……」
「僕の方が背が低いからです…それに、安心してください……
僕だって、今のままじゃあなたと仕事以外で組むのはごめんですから……」
「…っ?!」
「厘ちゃん…喧嘩売らないの……杏も気にしちゃダメだよ…」
「でも!ってか、メルメルと亜梨ちゃんは?!」
「後方支援〜」
「はぁ?!」
「変わるの無理だからね杏?」
「何で?!」
「まず、亜梨姉…あの無愛想じゃ、社交界には向かないもん…」
「メルメルは?!」
「男の人と極力関わりたくない。」
「…………」


メルメルの答えに、一気に疲れを感じた私は、部屋を出ようとした。


「杏!ちゃんと守るから安心して!!」
「ハイハイ。頼りにしてるからねぇ…」


私は後ろ手に手を振り、部屋を出て扉を閉めた。
そのことで、私はメルメルの呟きを聞くことは無かった。






「同じ事を聞くくらい、息ぴったりなのにね………」



そしてその夜・・・
私は渋々男物の煌びやかな服を着込み、ばれないよう化粧をして、
なるべく男の人に見えるよう変装した。


「うわぁ・・・杏かっこいい・・・」
「ありがと・・・」


着替えが終わり、部屋を出ると、そこにいたメルメルに会った。

「・・・で?今回の任務のパートナーは?」
「まだ準備できてないみたいだよ?」
「ふ〜ん・・・」


まだか・・・
私は少し喉が渇いて水を飲もうとコップを持って水道に移動したとき、
突然メルメルの声が聞こえた。

「厘ちゃん?!!」
「お待たせしました・・・」
「すごい!!!」



そんな大げさな・・・
と、メルメルの声に、私は少しウンザリしながら、水を一杯飲んで、
視線をそちらに向けると、そこには見知らぬ女性が立っていた。



「・・・どちら様?」
「戒厘様ですが?」
「・・・・嘘・・・・」
「嘘ついてどうするんですか・・・
ばれないためには、コレくらいしないと・・・」


そう言って微笑む女性は、声は明らかにあの毒舌者なのに、
姿はどう見てもか弱そうな女性だった。

「・・・化け物が・・・」
「ちょっ?!酷いじゃないですか亜梨ちゃん!!」


突然入ってきた亜梨ちゃんが、戒厘ちゃんの真後ろで呟いた。
そんな亜梨ちゃんに笑う戒厘ちゃんは、
今までに見たことない姿で微笑んでいた。


「・・・杏見惚れてる?」
「・・・うん。」
「・・・認めるんだ・・・」
「・・・え?だって・・・変わりすぎでしょ・・・」
「・・・案外、術だったりして?」
「あぁ、呪術者だしね・・・」


そんなことをメルメルと話していると、戒厘ちゃんが視線をこちらに向けた。

「・・・よく分かりましたね術って・・・」
「・・・マジ?」
「ええ。」
「どんな術なの?!!」
「梅流ちゃん・・・それは、企業秘密です。
さっ、杏さん?行きましょうか?」
「・・・は〜い・・・」

笑顔でのはぐらかし方は、戒厘ちゃんのままだ・・・
そんなことを考えながら、私は戒厘ちゃんと並んで会場へと向かった。


無差別に人間を殺すかもしれないという、見知らぬ敵を見つけるため、
舞踏会にもぐりこみ、パートナーと共に周りを注意し、
もしもその敵を見つけたら、後方支援の亜梨ちゃんとメルメルに
どうにかして伝える。
それが、今回の任務。


「・・・って、何してんの?」
「・・・え?立食だったんもで、食べ物取ってきたんですが・・・」
「・・・いやいやわざわざ食べなくていいでしょ・・・」
「だって、せっかくだしもったいないじゃないですか・・・
それに、もう少し男の人になりきってください。」
「・・・ハイハイ。だったら、ちゃんと大人しくココに立ってろ。」
「え?」
「・・・飲み物とって来る・・・」
「はい。」


いつも以上にやりにくくて、いつも以上に疲れた私は、
少し歩こうと飲み物を取るといって戒厘ちゃんの隣から移動した。

それにしても、多いなぁ人・・・

こんなところで犯罪が起きないはずがない・・・


ほら、早速・・・
嫌がってる女性に、ぶっ細工な男が迫ってる。

「ちょっと・・・やめてください・・・私、パートナーいますし・・・」
「いいじゃん、一曲付き合ってよ・・・」
「でも、彼すぐ戻ってくるから・・・」
「大丈夫、大丈夫。すぐ終わるし、ね?ほら・・・」


手を引っ張られ、踏ん張って堪えようとしてる女性だけど、
高い履物は履き慣れないのか、フラフラして危なっかしい。


「きゃっ?!!」


あまりに男が強引に引っ張るから、女性が転びそうになった。
私は思わず走り寄ると、後ろから軽く抱きしめるように女性を支えた。

「え?!」
「大丈夫ですか?」
「おい、何だアンタ・・・」
「アンタこそ何だよ・・・無理やり引っ張ったら、危ないだろ・・・」


男っぽい乱暴な台詞あってるかな・・・

そんなことをのんびり考えてると、やっと男の手から解放された女性が、
私の後ろに隠れるように逃げ込んだ。
それにしても、小柄な人だなぁ・・・

「大丈夫?」
「はい・・・」
「テメェ・・・かっこつけてんじゃねーぞ・・・」
「・・・オッサンはカッコ悪いよ・・・無理やり嫌がる女の子引っ張って、
怪我させたらどうするんだよ・・・」
「このっ・・・・!!」
男が興奮しすぎて、殴りかかってきた。


けど、あんまり喧嘩したことないんだろうなぁ・・・


「無理しないほうがいいよ?ってか、舞踏会をつぶす気?」


私は殴りかかってきた男の手を受け止め、そのまま床に押さえつけた。


「・・・今さ、俺すごいめんどくさいことさせられてんの・・・
イライラしてんだよね・・・あんまりお痛が過ぎると・・・酷いよ?」


耳元でそう囁くと、男は悔しそうに暴れようとした。

「・・・このまま腕の骨折ってもいいけど?」
「・・・っ?!!」

私が力を入れ、男が叫び声を上げようとしたとき、私の肩に誰かが触れた。

「何してるんですか?」
「・・・別に・・・」
「私をおいて、こんなところでお遊びですか?」

顔だけ向くと、戒厘ちゃんが微笑んでいた。
知ってるものにしては、一番嫌な微笑を浮かべて・・・


「さぁ、手を離して・・・」


私を男から離すと、うずくまったままの男に、戒厘ちゃんが近づいて、
しゃがんで顔を上げさせた。

「・・・連れがお世話になりました・・・」
「・・・このっ?!」
「・・・お怪我はありませんか?」
「・・・あるわ!!」
「そうですか・・・それは、困りましたね・・・」
「このまま訴えてやる・・・治療費出してもらうからな!!!
恥じをかかせやがって・・・・お前等全員破滅させてやる!!!!」



男がそう叫んだとき、戒厘ちゃん笑顔が変わった・・・
たぶん、それを感じたのは近くにいた私だけだったと思う。


止めなきゃ!!!


そう思ったとき、すでに遅かった。
そっと戒厘ちゃんは男の頬に手を当てると、にっこりと微笑んだ。


「・・・消えてください・・・」
「なっ?!」
「ダメ!!!」


戒厘ちゃんの肩をつかんで、男から引き離すと、
男は一点を見つめたままピクリとも動かず、一方の戒厘ちゃんは、
冷たい笑みを浮かべて男を見下ろしていた。



「う………ぅあぁぁぁぁぁ!!!!!」

男は、奇声を発しながら走り去った。

「なんだあれ………」

ちょっと冷静さを取り戻した私は、男の背中をあきれて眺めていると、
隣の戒厘ちゃんが動いた。


「あなた、大丈夫ですか?」
「……え?あ、はい!ありがとうございました!!」

戒厘ちゃんが、自分よりも小柄な女の子に声をかけると、
彼女はことの経緯をただ驚きのまま見つめていた彼女は、
勢いよく頭を下げた。


すると、髪に指していた飾りが、その勢いで床に転がり、
私の足の下に転がった。


私は、それを拾い上げると、彼女に近づきそっと髪につけ直した。


「気をつけて……」
「あ……はぃ……///」

かわいいなぁ…
純粋にそう思っていると、戒厘ちゃんの声が聞こえてきた。


「そろそろ行きましょうか……」
「あぁ……それじゃ……」


そう言って彼女と別れ、私たちは壁際に戻ってきた。

「さっきの男…」
「はい…」
「何をしたの?」
「ああ、あれは…」


隣に立つ戒厘ちゃんを見ると、思いっきりどす黒い笑みを浮かべていた。

「一種の簡単な暗示ですよ…ちょっと怖い幻覚を見せたんです……」
「暗示って……ちゃんと解けるの?」
「もちろん……明日の朝には解けますよ……寝ればあっというまです……」


寝れないだろうなあの男………
黒い笑みを浮かべる彼女の隣で、私はあの男に哀れみを感じた。


「そんなことより……杏さんって、なかなか……」
「何?キレやすいって??」
「いえ…違います……なかなか、タラシ……ですよね……」
「はぁ?!どこが!!」
「それも、天然ですか……」


そう言って笑う戒厘ちゃんは、本当に楽しそうだった。

「……私、ちょっと連絡してきます……」
「は?突然?」
「えぇ…たぶん、遊んでばかりいて、ご立腹でしょうから…」


そういうと、我らがリーダー達のところへ行ってしまっ
たパートナーを見て、ますます彼女に疑問を持った。



彼女が何かを感じるとき……
特に、亜梨ちゃん関連の思いつきは、100%と言っていいほど、
的中させる……
これも一種の術なのかなぁ…

そんなことを思いながら、ぼーっと人間観察をしていると、
隣に誰かが立った。


戒厘ちゃんが帰って来たにしては早すぎると、不思議に思って横を見ると、
そこには綺麗な長身の女性が立っていた。



綺麗な人………だけど、なんか苦手かも………


綺麗すぎるというか………
綺麗だけど、棘のある黒いバラの様な人………





私は、何故かその人にかなりの嫌悪感と、少しの恐怖心を抱いた。



すぐ目を離すつもりだったけど、なぜか目を離せなかった私の視線に
気がついたのか、隣の女性はチラッと私を見て、軽く会釈をした…

微笑みながら…
私は、外見上は何事もなく微笑んで会釈を返した。


実際には、その微笑みに、戒厘ちゃんとは全く違う嫌悪感を抱いて、
鳥肌を立てていた。


なんだかんだ言って、私戒厘ちゃんの黒い笑顔嫌いじゃないんだ………


新たな意外すぎる発見をしながら、会話をしないよう、
すぐに女性から視線をはずした。



すると、その人が動く気配がした。
注意をそちらに向けたとき、正面から戒厘ちゃんが現れた。


「お待たせしました…」
「ホントだよ…」
「……え?」


微笑みながら現れた戒厘ちゃんに、思わず本音を漏らすと、
戒厘ちゃんは不思議そうに私を見た。


ヤバッ…
誤魔化さなきゃ………


「パートナーほっといて、どっか行っちゃうんだもんな…」
「……寂しかったんですか?」
「残念…綺麗な花を見てたから、寂しくはなかったけどね……」
「それは、目の保養をじゃまして悪かったですね…」

私達は思わず笑顔で、端から見るとちゃんとカップルに見えるように
振る舞っていた。


それにしても、まだ隣に立つあの女性が気になる…



「………あ……あの………」


戒厘ちゃんと話しながら、隣に意識を向けていると、
戒厘ちゃんの後ろから声が聞こえた。
どこかで聞いたことがある声だけど………

一瞬、少し驚いて、戒厘ちゃんと目を合わせたけど、戒厘ちゃんが後ろを振り向くと、そこには恥ずかしそうにうつむく、さっき助けた女の子が立っていた。

「あれ?さっきの……」
「どうしたんですか?」

戒厘ちゃんが近くに寄って問いかけると、
その子は恥ずかしいのか真っ赤な顔で私を見上げた。


「……あの……パートナーがいる方なのに、
すごい非常識なお願いだと分かっているんですが、一曲でいいんです……
一緒に踊ってもらえませんか!!」
『……え?』

私と戒厘ちゃんは、思わず驚いて顔を見合わせた。

かなりの覚悟で言ったんだなぁ……
頭を下げる彼女に、そんなことを思っていると、戒厘ちゃんが答えた。

「まだ、私も踊ってないのですが…そんなに必死に頭を下げられたら、
困りますね……」


私は少し驚いた…
だって、てっきり任務中だし、やんわりと断るかと思ってたのに……

「どうするんですか?」
「そうだなぁ…」


少し、考えるように声を出すと、
彼女はすごく悲しそうな目をして顔を上げた。



なんか、ヤだなこの顔………


その悲しそうな顔がいたたまれなかった私は、彼女の前に移動した。

「…さっき、待ちぼうけ喰わされた仕返しな…」
『え?』

戒厘ちゃんと彼女の声がハモって、少しおもしろかった。

「いってくるから、おとなしく待っててな…」
「え?えぇ…」

驚いたままの戒厘ちゃんに背を向け、小柄な女の子の正面に立った私は、
とりあえずエスコートした方がいいのかと、手を差し出した。

「俺、踊ったことないし、下手だよ?」
「あ…ありがとうございます!!」

うれしそうに頭を下げた彼女の手を取ると、私は広間の中央に歩み出た。


そういえば、あのイヤな雰囲気の人どうしたっけ?
思いがけない人の登場で、すっかり忘れていたけど、
何だったんだろうさっきの………


「あの……」
「ん?」


いざ、踊ろうと広間の中央にきた瞬間、
彼女は恥ずかしそうに下を向いてうつむいた。

「どうした?」
「実は…」
「うん。」
「あの…」
「足でも痛い?」
「いいえ!違うんです……」
「どうした?次の曲始まるんじゃないかな?そろそろ…」
「私…踊れないんです!!」
「………え?」


聞いちゃマズいと分かってながらも、思わず聞き返してしまった……


「じゃ、なんで……」
「本当は、少しお話したかったんです!」

またもやかわいそうなくらい真っ赤な顔の彼女を見た私は、
彼女の手を引いて、歩き出していた。

「…え?」
「早く言ってくれればよかったのに…俺も踊れないし助かったよ…」
「…ごめんなさい……」
「謝らなくていいって……とりあえずじゃまになるし、静かなとこにいこうか…」

私はそのまま外に出て、近くにあったベンチに彼女を座らせた。

「あの……」
「パートナーはいいの?」
「…え?」
「ほら、さっきあのオヤジに迫られてたとき、パートナーいるって…」
「あ…あれ、実は嘘なんです…」
「え?」
「知り合いの紹介で、一人で来てるんです私…」
「そーなんだ!じゃ、ゆっくり話してても迷惑かからないね…」
「はい!え?あ、いいえ!!ダメです!
一曲終わったら、パートナーさんのところにお返ししなきゃ!!」
「あ…忘れてた…」
「もう!ダメじゃないですか!あんな綺麗なパートナーさん忘れちゃ!」
「怒られるとヤバいし、今の内緒ね…」
「も〜!」

私たちはそう言って打ち解け合い始めた。


彼女は花梨と名乗った。
一瞬驚いた……
カリンという名は結構あるけど、まさか親しくなるとは……


ってか、同じカリンでも、違いすぎるでしょ……
彼女は仕草一つ一つが女の私でもかわいいと思うほど、
どこぞの誰かとは違っていた。


しばらく話していると、誰かが外に出てきた。


誰か、少し涼みにきたのかと、ふとそちらを見ると、
そこにはあの嫌悪感あふれるあの女が立っていた。

「…っ!」
「どうかしたんですか?」
「…え?あ、ごめん…何でもないよ……」

心配そうな花梨ちゃんに、少しひきつったであろう微笑みを浮かべたとき、
その女が近づいてきた。


そのとき、また誰かが現れた。









そこに立っていたのは、紛れもなく、私の本来のパートナーだった。








何だろ?




何か違和感がする……



今、この空間にいるのは、私を含め四人の女だけ……



でも、何かが違う………



何かがおかしい………




違和感を感じた瞬間、突然耳鳴りがした。

「………っ」
「大丈夫ですか?」


思わず耳鳴りに顔をしかめた私を心配して、花梨ちゃんが私の腕に触れ、
私の顔をのぞき込んだ。

「ごめん…大丈夫だよ……ちょっと耳鳴りがして……」

そう言って微笑むと、花梨ちゃんは、ホッとしたように微笑み返し、
チラッと本来の私のパートナーの戒厘ちゃんを見た。

「俺のパートナーも、案外一人を我慢できないみたいだね…」
「…戻って差し上げた方がいいんじゃないですか?」

ゆっくりと近づく戒厘ちゃんに、花梨ちゃんは少し寂しそうに私を見上げた。



何でだろう……?
何で、この子にこんな顔されるとこんなにも心苦しいの?
どうして私は、もっとそばにいてあげたいと思うの?



「……踊るんじゃなかったんですか?」
「俺もこの子も踊ったことなくてな…」
「…心配するじゃないですか…」
「……え?」

チラッとあの女を見てそう言ったこの人の台詞に、
この人はあの女に気がついていたのだという確信と、
なぜか何かに違和感が深まった。



あの女の存在に対する違和感………


冷静に考えると、今まで感じたことのない、戒厘ちゃんに対する嫌悪感……


表情一つ一つに心が動かされる、花梨ちゃんの存在に対する違和感………



そして、性別を偽ってる私の違和感………









たぶん、ここにいるすべての人間が、嘘をついてる…

















そこまで気づいていたはずなのに、私は見た目に惑わされ、
違和感を無意識に無視し続けた。



「心配するんだ…珍しい……」
『…え?』


思わず出てしまった本音に、Wカリンちゃんが驚いたように私を見ていた。


「あ、いや!ほら、いつも信じてくれてたし…!」


ヤバい……
私今テンパって、男になりきってない……



「お取り込み中いいかしら……?」


突然聞き慣れない声がして、驚いてそちらを見ると、
そこにはあの女があの、いけ好かない笑顔で立っていた。

「何か、ご用ですか?」

平然と戒厘ちゃんが女に答えたとき、私の後ろにいた花梨ちゃんが、
ギュッと私の服に捕まった。




おびえてる?

違う……
何かが違う……


顔を花梨ちゃんに向けたとき、花梨ちゃんが突然私の腕を引っ張った。

「…え?」



よろめいて、一歩下がった次の瞬間、立っていたところに、
細い糸の様な物が刺さった。



なに………?
なにが起きたの??



『・・・え?』

私と花梨ちゃんは驚いて同時に声を上げた。

花梨ちゃんを見ると、花梨ちゃんもまた驚いて私を見ていた。



私は、花梨ちゃんに引っ張られたことで攻撃をかわせたことに対する
驚きだけど・・・
じゃあ花梨ちゃんは何に驚いた・・・?


「大丈夫ですか?!」

しりもちを付いて、花梨ちゃんを見ている私に、
もう一人の戒厘ちゃんが近づいてきた。




何?


頭の中で何かの警報が鳴り始めた。



「皆さん?そんなところで、ご歓談しててよろしいのかしら?」

『え?』


声をしたほうを見ると、あの女がいつの間にかコスチュームを変え、
不気味な笑顔で私達三人を見ていた。



「いつの間に変えたんですか服を・・・」
「あら、気づかなかったのかしら・・・?」
「ええ・・・まったく・・・」

戒厘ちゃんが立ち上がり、ドレスの肩の部分手ををかけた。






おかしい・・・



何かが変・・・






戒厘ちゃんが、中に仕込んでいるのであろう戦闘服に変わろうとしたとき、
また花梨ちゃんが私の腕をギュッと握った。
花梨ちゃんの目を見ると、微かに頭の中の警報が止んだ。



「・・・大丈夫ですか?」
「・・・うん。」




花梨ちゃんの言葉に、私はただ短く頷いた。


「・・・ホント全然気が付かなかったわ・・・」

私はそう言って、花梨ちゃんを見つめたまま花梨ちゃんに手を貸して、
立ち上がった。


「一つ教えてくれない?」
「何ですか?」
「・・・アンタ達誰?」
『え?』

戒厘ちゃんと女に距離をとって、花梨ちゃんとともに二人を見ると、
二人は少し驚いて・・・
でも、どこかそれを当たり前のような顔をして私を見た。

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7.観察


ある日、久々にのんびりと一つの部屋の中に4人が思い思いの事をして
くつろいでいた。


亜梨ちゃんは、コーヒーを飲みながら、新聞を読んでる。


メルメルは、本を楽しそうに読んでいる。


戒厘ちゃんは・・・
何か薬の調合・・・(汗)?




そして、私はやる事も無くて、戒厘ちゃんが入れてくれた
ハーブティを飲みながら、皆を観察していた。




実際イヤミはなしで、こんなに地上人を観察する事が無かったし、
私にとっては、勉強になるのかも・・・






まず、身体的差はさほど感じない。




多分、地界人特有の肌の黒さを除けば、全く分からないと思う・・・




実際、私もなぜか地界人にしては、地上人みたいな肌をしていると、
地界では言われ続けたし、そう考えると私がこの三人の中に入っても
違和感無いのは、当たり前の事かもしれない・・・






それにしても、亜梨ちゃん疲れないのかな・・・


ずっと新聞ばっか読んで・・・




別に最近面白いニュースも無かったし・・・


大きい事件やらも無かったし・・・




何を見てるんだろ?




まさか、株とかやってたりして?!!




株やってるから世界状況とか気になるのかな!!










・・・ってそんな分けないか・・・






亜梨ちゃんが株やる必要なんてないもんね・・・






あ、そっか・・・
亜梨ちゃん説法・・・?
・・・説教?
・・・とにかく、敵さんやら戒厘ちゃんに言い聞かせる為の、
ネタ探しでもしてるのかな?








ってか、敵にも戒厘ちゃんにも一般常識は通じないと思うんだけど・・・


「・・・フフっ・・・」




突然微かに笑い声が聞こえて、その方向を見ると、戒厘ちゃんが・・・


じゃなくて、メルメルが本を読みながら、笑っていた。




ってか、戒厘ちゃんが薬調合しながら笑ってたら、怖いか・・






それにしても、メルメル見てると、その本の描写が分かるかの様に、
ニコニコしたり、悲しそうな顔したり、怒った様な表情してみたり・・・




亜梨ちゃんとは違う意味で、疲れそう・・・






きっと、今読んでる場面は楽しい場面なんだね・・・








でも、メルメルって最近思うけど、一番喰えないかもしれない・・・






本当は、なんでも知っているのに、それをうまく隠しているというか・・・




それか、分かっていなくても、何か有ると察知する能力が、
かなり敏感と言うか・・・






たまにメルメルって、本当にドキッとする所をついてくるもんね・・・


それから・・・




メルメルから視線を外し、戒厘ちゃんを見ると、
今まで薬の調合をしていた戒厘ちゃんが、
いつの間にかその場所から姿を消していた。




ちょっとびっくりして、気配を探るけど、どこにもいない・・・




「なに、キョロキョロしてるんですか?」
「きゃぁぁぁ?!!!!」




いないと思っていた戒厘ちゃんが、
突然私の後ろから耳元でささやいた事で、私は不覚にも悲鳴を上げていた。




「・・・うるさい。」
「どうしたの杏?」
「なんでもない・・・ごめん二人とも・・・」




亜梨ちゃんもメルメルも慣れっこで、いったん私に目を向けたけど、
すぐにそれぞれのしていた事に戻った。




「戒厘ちゃん?!!」
「いや、さっきから杏ちゃんキョロキョロしてたので、
気になりまして・・・」
「だからって、気配消して真後ろから耳元でささやく事無いでしょ?!」
「・・・いや、まさか悲鳴あげられるとは思ってませんでしたけどね・・・」
「びっくりしたんだから!!」
「でしょうね・・・はい、お茶のおかわり・・・
そろそろ、飲み終わる頃だと思って・・・」
「あ・・・ありがと・・・って、普通に現れてよ!!!」
「スミマセン・・・」




悪びれた様子も無く、ニコニコしたままお茶を入れ替えて、
また薬の調合に戻った戒厘ちゃん・・・






未だに彼女が掴めない・・・






本当に分からない人・・・








優しいのか冷たいのか、穏やかなのかキレやすいのか・・・






まるで、正反対の感情を常に持ち合わしてる様な・・・




絶対、それをあの笑顔でごまかしてるんだ・・・


そんなことを考えつつ、新しく入ったお茶に口をつけると、
今度はさっきのお茶とは違った味がした。




「戒厘ちゃん?」
「なんですか?」




薬の調合からいったん目を離した彼女は、私を見た。




「これさっきのと違う?」
「ええ。さすがに皆それぞれのこと集中してやってますからね・・・
そろそろ疲れて来たと思って、疲れに効くお茶にしてみました・・・」
「・・・へぇ・・・」




確かに、飲むと頭がしゃきっとする気がする。




「なんかさ・・・厘ちゃんって・・・」
「なにメルメル?」




突然口を開いたメルメルを見ると、座ってティーカップに口をつけたまま、
軽く湯気を息で吹き飛ばしながら一口飲み込んだ。




「・・・なんかね・・・なんでも薬にしちゃうような、
なんでも知ってる・・・おばあちゃんみたい・・・」


『ブッ!!!』




私と亜梨ちゃんは思わず吹き出した。


おばあちゃんって・・・!!


お医者さんとか、魔法使いじゃなくて、おばあちゃんって・・・!!!






「梅流ちゃん・・・面白い事を言ってくれますねぇ・・・」
「・・・あ"・・・」




この上なく黒いオーラを放ちつつ、ニッコリ笑う戒厘ちゃんに、
メルメルはさすがに自分の暴言に気が付いたのか、思わず私の後ろに来た。


「って、なんで私の後ろ?!!」
「だって、亜梨姉、こういう時『自業自得だろ』っていうもん!!!」
「だからって、巻き込まないでよ?!!!」
「嫌だなぁ二人とも・・・僕は何もしませんよ・・・」
『嘘だ!!!』


思わず同時に叫んだ私とメルメルは、蛇に睨まれたカエルのように、
その場から動けなかった。




ってか、動いたら絶対死ぬ!!!




「お前ら・・・」




やっと口を開いた亜梨ちゃんに、少しでも期待をもった私が
馬鹿だったと気が付くのは、すぐのことだった。




「宿は壊すなよ・・・金は払わないからな・・・」
『ちょっと!!!』






それから、ギャアギャアと騒ぎ、いい加減我慢の限界がきた
亜梨ちゃんの発砲が出るまで、私たちは逃げ回っていた。






これが私たちの日常・・・
私たちの飾らない姿・・・








もう少し、普通の地上人、地界人の観察がしてみたいと思った
今日この頃です。




.

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6.夢



ある日、ある宿に泊まった私たちは、メルメルと亜梨ちゃん、
私と戒厘ちゃんのペア二部屋で泊まることになった。

部屋に入り、それぞれにくつろいで、
しばらくして戒厘ちゃんは眠ったのだけれど、
私は何故か寝付けなくて暗い部屋でぼんやりと月を眺めていた。


綺麗な月が輝いている。
月を眺めていると、自分が自分でないような錯覚に陥るときがある。

私って一体何?


私は、青龍の神子で、地界人で・・・

でも、どこから来たんだろう?

地界?


違う・・・

もっと前・・・


私が知る世界のもっと前・・・


私は何故ここにいるんだろう?

どうして、地界人の私がこんな旅をしているの?


それは、もしかして私が私となる前の誰かと関係があるのかな?



「そういえば・・・」

思わず小声で呟いた私・・・
確か、戒厘ちゃんって過去を覚えているって言う・・・


過去っていっても、私達が覚えてる過去のレベルじゃない過去・・・


たぶん、私達がこうしてココにいることに繋がる過去・・・


彼女は絶対それを言おうとしない・・・

そして、何かを償うよう私達を守ろうとする・・・


亜梨ちゃんもメルメルもそれに気づいているみたいだけど、
あえて触れようとしない・・・


イロイロ考えすぎて、喉が渇いた私は、冷蔵庫から水を出そうと、
椅子から立ち上がった。


そのとき、戒厘ちゃんが突然うなされだした。

「・・・うっ・・・」
「・・・?」

私は思わずそっと戒厘ちゃんに近づいた。


とても悲しそうな顔・・・
というか、苦しそうな顔で戒厘ちゃんはうなされている。


「イヤ・・・だ・・・」
「・・・え?」
「イヤだ・・・どうして・・・あ・・・にー・・・様・・・」


戒厘ちゃんの寝言に、私はその場から動けなくなった。


あ・・・にー・・・?
あにー・・・・


その誰か分からない名前を私は知っているみたいだった。


私は知らないのに、私じゃない誰かが知っていると訴えている。


涙を流しそうなくらい懐かしい名前・・・


私は思わず戒厘ちゃんの汗を拭った。


「・・・・っ?!!」
「あ・・・ごめん・・・」


私が触れたことに驚いたのか、突然起き上がり私の手首をつかんだ。

「・・・あ・・・」
「・・・なんか、うなされてて、汗・・・」

私がそう言うと、戒厘ちゃんはただ自分のつかんだ私の手を見つめていた。


「・・・ごめんなさい・・・」
「あ、ううん!私こそゴメン・・・起しちゃって・・・」
「違うんです・・・」


戒厘ちゃんは、私の手をつかんだまま、まるですがるかのように額にあてた。

「ゴメンナサイ・・・」
「戒厘ちゃん・・・?」
「ゴメンナサイ・・・」

戒厘ちゃんは何故か謝り続けた。

「どうしたの?」
「・・・いえ・・・なんでもないです・・・」

やっと私の手を離した戒厘ちゃんに、水を持ってくると、
戒厘ちゃんはいつになく、落ち込んだような、
今にも泣きそうな顔をしていた。


「なんか夢でも見たの?」
「・・・・ええ・・・とても嫌な夢を・・・」
「どんな?」
「・・・・・・思い出したくないのに、
覚えていなきゃいけない夢です・・・」


その戒厘ちゃんの言葉に、きっと戒厘ちゃんは
過去のことを夢で見たのだと思った。


戒厘ちゃんがそこまで平常心を無くすということは、
きっと私達の過去は悲劇に幕を閉じたってことなんだろう・・・


すくなくとも、『あにー』と呼ばれたその人は・・・


「すみません・・・」
「大丈夫?」
「ええ・・・ゴメンナサイ・・・」
「ねぇ戒厘ちゃん?」
「・・・?」
「・・・さっきから謝ってばかりだよ?」
「え?」
「らしくないよ戒厘ちゃん?」
「・・・らしく・・・ない?」
「・・・ホント大丈夫?寝ぼけてるんじゃない??」
「あ・・・そうかもしれませんね・・・」
「戒厘ちゃんは戒厘ちゃん。私は杏。そうでしょ?」
「そう・・・ですね・・・そうですよね・・・僕は僕・・・
杏ちゃんは杏ちゃんです・・・」
「・・・寝れる?」
「・・・ええ。」

やっと笑顔を見せた戒厘ちゃんに、私は微笑むと、
戒厘ちゃんのベッドの隣にある私のベッドにもぐりこんだ。

「私が側にいなかったから寂しくて怖い夢見たとか?」
「・・・そうかもしれませんね・・・」
「・・・冗談だよ?」
「ええ。分かってますよ?」

私達は寝転んだまま笑った。


「・・・いつでも起していいからね?」
「有り難うございます。」
「ってか、今度うなされたら私が無理やり起すから・・・」
「お願いします・・・」

そう言うと、私達はやっと眠りについた。




次の日の朝、寝不足のまま朝早く私は宿の中庭で太陽を浴びていた。

太陽を浴び、思わずこみ上げたあくびを押し殺し、
伸びをすると真後ろに亜梨ちゃんがいた。


「あ…オハヨ亜梨ちゃん…」
「あぁ…寝不足か?」
「まぁね…戒厘ちゃんが寝かせてくれなくて…」
「そうか…」

そう言うと、亜梨ちゃんは近くにあったベンチに腰掛けた。


「冗談なんだけど…」
「どうだかな……」


私が亜梨ちゃんの隣に腰掛けると、亜梨ちゃんは太陽を仰いだ。


「やっぱ、皆の時もああなの?」
「…最近、だいぶ静かに寝てるようだがな…」
「昨日はずっと謝ってた…」
「………そうか…」

亜梨ちゃんは何かを知っているかのように目を閉じつぶやいた。


「今日は部屋を変えるか?」
「ん〜別にいいよ…」


再び背伸びをした私は、亜梨ちゃんを見た。


「…アリガト」
「別に…敵が来たとき、寝不足でしたなんて言い訳で
とばっちり喰うのはイヤだからな…」
「大丈夫…私は青龍だよ?簡単にやられてたまりますか…
やられるくらいなら…」


「自殺するなんて言わないでよ杏?」


亜梨ちゃんと一緒に驚いて後ろを振り返ると、
そこには笑顔のメルメルと、複雑な顔をした戒厘ちゃんがいた。


「……自殺?」
「そんなもん、する訳ないだろこいつが…」

そう言う亜梨ちゃんを見ると、私を見た。

「そんなことで、逃がすと思うか…?」
「え?」


私より、何故か戒厘ちゃんが驚いた。


「オレが地界から引きずり出してきたんだ…
誰かにやられるのも、逃げるのも許さない…」
「………私だけ?」
「自分から死のうとするのはお前だけだからな…」
「何それ…」


私はわけわからないながらも、何故かどこかで納得していた。



自分から死のうとするのは私だけ……



「皆殺しません…絶対に……私が……」


突然俯いたままの戒厘ちゃんがつぶやいた。

「厘…ちゃん?」
「絶対に今度は…絶対に……」

戒厘ちゃんの悲痛な叫びのような呟きに、
私とメルメルは思わず顔を見合わせた。

そのとき、いつの間にか私の隣から戒厘ちゃんの側に移動した亜梨ちゃんが
そっと戒厘ちゃんの肩に手を置いた。


「の…あ……さ」
「バカが…」


戒厘ちゃんが亜梨ちゃんを『のあ』と呼んだ瞬間、
亜梨ちゃんが戒厘ちゃんの頭を殴った。


「亜梨ちゃん?!」
「亜梨姉?!!」


「何するんですか亜梨ちゃん!!!」
「寝ぼけてんな…」
「え?」
「……杏……ちょっと来い……」

やっと元の戒厘ちゃんに戻ったと思ったら、亜梨ちゃんが、私を呼び寄せた。


「何?」

私が亜梨ちゃんに近づくと、突然亜梨ちゃんに襟首を捕まれた。


「ちょっ!亜梨ちゃん!!」
「何するんですか亜梨ちゃん!!」


見ると、戒厘ちゃんもまた同じように引きづられていた。

「梅流…ロープ二本準備しろ…」
「うん!!」
「ちょっと!何するの!!」
「何考えてるんですか二人とも!!」
「寝不足らしいからな…縛り付けてでも寝かせる。」
『ええ?!!!』


それから、あっと言う間にヘッドに連れ戻された私たちは、
本当にベッドに縛り付けられた。


「逃げないから、ほどいてよ!」
「ダメだ…」
「杏ちゃん…観念した方がいいみたいですね…」
「夢見悪そ〜」
「安心して杏…うなされたら、起こしてあげるから…」
「デコピンでな…」
「なんで、デコピンなんですか?!」


そんな感じで騒いでた私たちだったけど、寝不足だったのも手伝って、
いつの間にか、夢を見ていた。







懐かしい夢だった。


側には皆がいる…


だけど、どこか違う皆だった。
でも、一緒にいることが当たり前だった…
心地よかった…


目を覚ますと、隣のベッドの戒厘ちゃんは、
昨日とは違ってスヤスヤ眠っていた。


唯一動く首だけ動かすと、テーブルには梅流ちゃんが、
ソファには亜梨ちゃんがそれぞれ眠っていた。


そして、天井に視線を向けると、さっきまで見ていた夢が思い出せず、
少し考えても思い出すことはできなかった。


「まぁいっか…」

そうつぶやき、私は思考を変えた。

思い出したくない夢を思うより、これからを考えよう…


とりあえず、三人が起きたらなんと言おうか…

それから、亜梨ちゃんにはどうやって仕返しをしようか…


ワクワクしながら、私はこれからを考えた。


私は私…
前も後も関係ない…
ただ、精一杯今を生きて、今を大切にするだけ…

昔の誰かを追うよりも、今のこの人達と楽しもう…


たぶん、それが前の私が望んだことだろうしね…


そんなことを考えながら、私は三人の目覚めを待ち続けた。

拍手

5.薬

風邪をひきました…



「ゴホッ…ゴホッ…」
「杏?」
「何メルメル?」
「今、咳…」
「ん?あぁ、なんか風邪?」
「えぇ?!大丈夫!」
「あ、大丈夫大丈夫…」

昨日からちょっと喉が痛くて、咳が出てきたけど、
まだそんな酷くないし、私はたかくくっていた。


まぁ、今日の晩早めに寝れば、治るでしょ……


「杏…ちょっとこっち来い…」
「何亜梨ちゃん?」

咳を我慢して亜梨ちゃんに近づくと、突然手首を捕まれ、引っ張られた。

「うわっ?!何亜梨ちゃん!!」


そのまま、亜梨ちゃんの側までくると、
突然亜梨ちゃんが私の額に手を当てた。


「………え?」
「………戒厘………」
「了解です…」
「……えぇ?!ちょっと!!」


何故か亜梨ちゃんと戒厘ちゃんの阿吽の呼吸に巻き込まれた私は、
今度は戒厘ちゃんに手を引かれ、部屋を出されそうになった。


「お大事にね杏〜」
「メルメル?!そんな酷くないし!!」
「オレらにうつす前に、さっさと治してこい…」

亜梨ちゃんの言葉を最後に、私は皆といた部屋から出されて、
寝室に移動した。

「ホント素直じゃないんですから…」
「誰が…?」

私は観念して、着替えながら机の前で何かをしてる戒厘ちゃんの方を向いた。


「梅流ちゃん以外皆…」
「亜梨ちゃんも?」
「ええ、一番心配してるくせに…」
「心配?そうかな??」

着替え終わり、ベッドに潜り込んだ私に、戒厘ちゃんは何かを持ってきた。


「主治医であり僕でさえ、気づきませんでしたもん…」
「何を?」
「杏ちゃんが熱あることです…」

戒厘ちゃんからトレイを受け取ると、
今度は戒厘ちゃんが私の額に手を当てた。


「…微熱ってとこですね……」
「だから、そんな酷くないって…それより、何これ?」


手のトレイをみると、明らかに薬と分かったけど、
戒厘ちゃんを見るとちょっと気になる笑顔を浮かべていた。


「最近、新しい薬開発したんですよね…」
「私に試せって?」
「まだ、酷くないならいいですよね?」


にっこり笑う戒厘ちゃんに私はため息をついた。

「ホント素直じゃないんだから…」
「何かいいました?」
「別に〜…ってか、ホントそんな酷くないし……」
「飲まないなら、無理矢理飲ませますよ?」
「どうやって…」
「たとえば…口移し?」

「…………マジそれはさすがに勘弁………」
「冗談ですよ……さぁ、飲んでください……」


私は渋々薬を飲んだ。

「苦っ………」
「良薬口に苦しって言うじゃないですか…」
「ハンパなく苦いんですけど…」
「ハイハイ、いい子で寝ましょうね…」
「うわっ…なんか、ムカつく…」
「文句は、治ってから聞きますから、今は早く寝てください…」


そう言って、優しく私を休ませる戒厘ちゃんに、
私は一瞬勘違いを起こしそうになった。


「そんな優しくされたら、勘違いしちゃうじゃん…」
「勘違いですか?」

急激に眠気におそわれた私は、目を閉じながら話を続けた。


「なんか…」
「なんですか…」
「戒厘ちゃん…優しい…みたい……」


私はそこで意識を手放した。


「酷いなぁ…」


そんな戒厘ちゃんの優しい声は聞こえなかった。


ホントはお母さんと言いたかったんだけどね…


しばらくして、ぐっすり眠った私は、気配を感じて目を覚ました。


「あれ…?亜梨ちゃん?」
「起きたか…」
「何で?」
「何がだ?」
「いや、何でいるの?」
「いちゃ悪いか?」
「いや、悪くないですけど…」


亜梨ちゃんの分からない理由に釈然としないながらも、
目を開けたとき側に誰かがいてくれたことで、すごく安心していた。


「…ってか、うつるのいやだったんじゃなかった?
あ、何とかは風邪引かないって…」


なんか、安心したことが悔しくて、悔し紛れに亜梨ちゃんを挑発すると、
亜梨ちゃんが黙って近づいてきた。


「な…なによ……」
「……薬が効いたようだな…」
「え…?」

亜梨ちゃんは、近づくとまた私の額に触れた。


その手と雰囲気が思いがけず優しくて、思わず見とれてると、
亜梨ちゃんは突然フッと笑った。

「……知ってるか杏…」
「何が?」
「最近はな……」


私から離れながら話し続ける亜梨ちゃんを見てると、
さっきまで座っていたイスに戻った亜梨ちゃんは、私に視線を向けた。


「最近は…何?」
「……自己管理ができないバカな奴が風邪引くんだと…」
「………なっ?!」


一瞬分からなかったけど、『クククッ』と笑う亜梨ちゃんをみて、
私はやっと意味を理解した。


「亜梨ちゃん?!」


叫んだ瞬間、咳がこみ上げ、私がせき込むと、
そこに買い物袋を下げたメルメルが入ってきた。

「大丈夫杏?!亜梨姉、杏を無理させちゃだめって言ったでしょ!!」
「オレは別に無理をさせてないが?」
「も〜!」


咳こむ私の背中をさすりながら、メルメルは亜梨ちゃんに文句を言った。

「杏?水分取った方がいいよ?」
「ん〜……」

メルメルに飲み物をもらい、口付けると今度はメルメルは
プリンとゼリーを手にしていた。

「こういうのが食べやすいんじゃない?」
「ん〜…」
「お前等は夫婦か…」

私達のやりとりをみた亜梨ちゃんが、ぼそっとつぶやいた。


「杏がお嫁さん?」
『逆?!』


ありきたりなメルメルのボケに、私は亜梨ちゃんと同時に叫んでいた。


「それだけ元気なら、もう大丈夫ですね…」

ニコニコしながら入ってきた戒厘ちゃんは、すぐに私の側にきた。


「どこか行ってたの?」
「えぇ、亜梨ちゃんに留守番を頼んで、
梅流ちゃんと買い出しに行ってきたんですよ…」
「ふ〜ん…」
「風邪で熱があると、人肌恋しいと思って、
手頃な人間買おうかと思ったんですけどね…」
「いや、それは流石にだめでしょ…」
「だから、身近な人を…」
「身近な人……?」

私は、聞くのが怖いような気がしつつも、思わず聞いてしまった。


「アイツだろ…」
「あ…いつ?」
「うん、杏の…」
「ちょっと待って?!まさか!!戒厘ちゃん!!!」

ニコニコのメルメルを見て、イヤな予感がしたから、
黙ってる戒厘ちゃんを見ると、メルメル以上にニコニコしてた。

「あの戒厘さん………?まさか、よけいなことしてないよね………」
「さぁ?何でしょ?よけいな事って…あぁ、それより、杏ちゃんは
もう少し休んだ方がいいですよ?」
「そうそう、ゆっくり休んで!」

戒厘ちゃんとメルメルに無理矢理寝かされると、亜梨ちゃんが立ち上がった。

「もう大丈夫だろ?」
「もう行くんですか亜梨ちゃん?」
「あぁ…そろそろ客が来るんだろ…」
「あ、やっぱり気づいてました〜?」
「んじゃ、またくるね杏!ゆっくり休んで?」


あっと言う間に去っていった三人を、あっけに取られていたけど、
最後の言葉に、今までにないイヤな予感がした…


「まさかね……」


しばらくして部屋に入ってくるであろう人を、会いたいような、
今は会いたくないような、ものすごい複雑な思いを抱きつつ、
なんかだるくなって、どうでもよくなってきた。


もう一眠りしようかな…


今日は珍しいのいっぱいみれたな…

なんか、家族みたいだった…


こんな楽しい発見があるなら、たまには風邪引くのもいいかもね…


そんなことを考えながら、私はまた深い眠りについた。

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